仙台地方裁判所石巻支部 昭和29年(ワ)75号 判決 1955年11月08日
原告 松巖寺
被告 松山巖王 外二名
主文
本件訴は之を却下する。
訴訟費用は原告代表者永井一英の負担とする。
事実
原告訴訟代理人は一、第一、石巻市湊字石山前一番墳墓地一反歩第二、同所七番墳墓地八畝二十五歩の土地は原告の所有なることを確認する。二、被告松山巖王は右第一の土地についての仙台法務局石巻支局昭和十七年四月十五日受附第九二一号贈与による所有権移転登記の抹消手続及右第二の土地についての仙台法務局石巻支局昭和十八年九月十六日受附第三五九九号贈与による所有権移転登記の抹消手続を為すべし。三、被告大林平蔵は右第一の土地についての仙台法務局石巻支局昭和十七年四月十一日受附第九〇四号所有権保存登記の抹消手続を為すべし。四、被告米倉松治は右第二の土地についての仙台法務局石巻支局昭和十八年九月十六日受附第三五九七号所有権保存登記の抹消手続を為すべし、訴訟費用は被告等の負担とする旨の判決を求め、其の請求の原因として、一、本件第一、第二の土地は古来原告の所有地にして第一の土地は檀徒たる被告大林の祖父為吉より父元吉を経て被告大林に至り同被告他二十五名が土地管理人となり同被告は其の代表者として該墓地の管理を為していた。而して被告松山は所有者たる原告松巖寺の住職なりしところ、昭和十七年四月中本山に出す書類に印がいるからと偽りて被告大林の印章を借り受けて同年四月十一日仙台法務局石巻支局に同日受附第九〇四号被告大林を所有者とする所有権保存登記を為し、同年四月十五日に於て同年四月十日贈与を原因とする被告松山に対する所有権移転登記(受附番号第九二一号)を為した。二、同じく第二の土地は檀徒たる被告米倉の父元治より同被告に至り同被告外十六名が土地管理人となり被告米倉は其の代表者として該墓地の管理を為していた。而して被告米倉は三十年前より南米サンパウロに居住し昭和二十八年に帰国したものであるが其の不在中被告松山は印鑑を偽造し昭和十八年九月十六日仙台法務局石巻支局に同日受附第三五九七号を以て石巻市湊南町百五番地被告米倉を所有者とする所有権保存登記を為し、同日昭和十七年六月二十日贈与を原因とする被告松山に対する所有権移転登記(受附番号第三五九九号)を為した。三、以上の次第で右第一、第二の土地についての所有権保存登記及所有権移転登記はいづれも不法のものなるを以て之が抹消を求むる為本訴請求に及んだ旨陳述し、被告松山の陳述に対し、仮に被告松山主張の如く新しく松岩寺が設立されたとしても、それは元の松巖寺である原告が事実上消滅したのではなく原告の寺を新松岩寺が承継したものであり、登記簿上原告が閉鎖されたとしても、原告は行政訴訟の確定判決を受くる迄は訴権がある旨述べ、尚本件物件につきさきに原告代理人が本件の被告米倉の代理人として訴を提起したが其の請求の内容は本件と相違しているものである。即ちさきの訴は本件の被告米倉より松山巖王に対する贈与を原因とする所有権移転登記の抹消を求めているものであり、本件は右米倉の名義に為した右物件の所有権保存登記の抹消を求めているものであるから、右原告代理人の本件の受任行為は弁護士法に違反しているものではないと述べた。<立証省略>
被告松山巖王訴訟代理人は原告の請求棄却の判決を求め、答弁として、原告主張の被告米倉、大林の本件物件の所有権保存登記の事実及被告松山の本件物件の所有権取得登記の事実は認める、其の他は否認すると述べ、尚被告松山は宗教法人法により文部大臣の認証を得宗教法人法による単立寺院松岩寺を設立し其の登記手続を了したものである。右登記により原告寺は消滅したものであるから原告寺には訴権がなく従つて本訴は不適法である旨述べ、尚原告代理人は昭和二十九年四月七日本件の被告米倉の代理人として松山巖王を被告とし訴を提起しているが、其の請求は本件物件の一部であり其の内容も本件と同一と認められる所有権移転登記抹消手続を請求しているを以て原告代理人は双方代理を為しているものであり、弁護士法に違反しているものであるので、原告代理人は被告米倉に対し本件訴訟行為はできないものであると述べた。<立証省略>
被告大林平蔵は原告の請求趣旨通り之を認めると述べ、答弁として、原告の被告大林に対する請求の原因は認める。被告大林は本件土地を自分のものに保存登記をしたり又被告松山に贈与したりする登記を申請したこともなければ其の書類に署名捺印したこともない。又其の土地はもともと原告のものであるからそれを自分のものにしたり被告松山にくれたりしたこともない。ただ昭和十七年頃に被告松山から本山に出す書類に印がいるといわれ印を貸したことはある旨述べた。<立証省略>
被告米倉松治は原告の請求趣旨通り之を認めると述べ、答弁として、原告の被告米倉に対する請求の原因は認める。被告米倉は本件土地を自分のものに保存登記をしたり又被告松山に贈与したりする登記を申請したこともなければ其の書類に署名捺印したこともない。又其の土地はもともと原告のものであるからそれを自分のものにしたり被告松山にくれたりしたこともない。自分は明治四十年南米に行き昭和二十七年十一月帰国した旨述べた。<立証省略>
理由
本訴の適否について職権調査を為すに、原告寺は宗教法人法に所謂旧宗教法人即ち宗教法人令による宗教法人なることは真正に成立したるものと認むる乙第十四号証により明らかなるところ、其の主管者たる被告松山は宗教法人法附則第十三項第十四項により原告寺(以下旧松巖寺と称す)を包括する宗教団体である曹洞宗との被包括関係を廃止し宗教法人法による松岩寺(以下新松岩寺と称す)を設立し其の登記を為したることは真正に成立したるものと認むる乙第十二号証の一、二乙第十三号証により明らかである。かかる場合に旧松巖寺と新松岩寺は同一の法人であるか別の法人であるかの点については、宗教法人法附則第十八項によれば、かかる場合には旧松巖寺は新松岩寺の設立登記の日に解散し旧松巖寺の権利義務は新松岩寺が承継し、この場合に於ては法人の解散及清算に関する民法及非訟事件手続法の規定は適用しないものであることを認むべく、又同附則第十九項によれば、この場合には旧宗教法人の登記用紙は閉鎖さるべきものなることを認むべく、右乙第十四号証によれば旧松巖寺の登記用紙は閉鎖せられたることを認むるに足る。右の関係は法規上旧宗教法人の解散、宗教法人法による宗教法人(同法に所謂新宗教法人)の設立の形式を履践すべきものなるもそれは旧宗教法人が新宗教法人となつたものと解せらる。しかし右乙第十二号証の一、二乙第十三、十四号証によれば被告松山は新松岩寺について宗教法人法附則第十五項により同法施行の日たる昭和二十六年四月三日より一年六月以内に同法第十三条の規定による認証の申請をしたものと認められ、原告代表者永井一英は其の後に当時旧松巖寺が包括関係下にあるものとして包括団体たる曹洞宗より任命せられ旧松巖寺の主管者となつたものと認めらる。然らば右乙第十三号証の如く新松岩寺が設立せられ其の代表役員が松山岩王となつた以上、右永井一英は遡つて初めより旧松巖寺の主管者でなかつたものと認めざるを得ない。依て右永井一英は初めより原告を代表する権限はなかつたものとなるを以て同人は本訴を提起し本訴についての訴訟行為を為すの権限なきものと認むるを以て本訴は之を却下すべきものと認めらる。新松岩寺設立についての行政処分に対し行政訴訟が提起せられ該訴訟が係属中たるの一事により右認定を左右できない。依て訴訟費用の負担については民事訴訟法第九十九条を適用し主文の通り判決する。
(裁判官 小林新太郎)